私の名前はキサラ。
見た目は普通の女の子だけど、正真正銘の魔女。
誰もが一度や二度は見たことがある童話達。
その童話に出てくる様々な魔女達。
それは全部、私なのだ。
私というのは少し違うかも、私であって私でない、簡単に言うと前世というやつだ。
私の前世、前世の前世、前世の前世の前世……そんな感じで様々な魔女に転生を繰り返していた。
そして現世に産まれ成長するのに比例するみたいに前世の色んな事を思い出した。
16になると同時に全ての記憶と魔力を取り戻したけど、前世の記憶を持っているのは今回だけ。
そのとき気付いた。今回の転生には使命がある。
関わってきた沢山の童話達ラストのその先、魔法で覗いてみたけど、どれもこれも幸せじゃない。
いや、そんなレベルじゃない最悪……。
同じように転生した童話達の主人公達、彼等を幸せに導く。
それがきっと前世の記憶をわざわざ持って生まれた理由。
そして直観した、この使命無視したら大変なことになる……今現世になくても来世、もしくは死後地獄行き……つまり彼等に幸せになってもらわないと私も不幸街道まっしぐらってわけだ。
そうして、あらゆる魔法を駆使してようやく見つけたのはヒロインではなくお相手いわゆる王子様ポジションの面々。
接触してみたら前世の記憶バッチリあり。
でもヒロインの容姿が変わってる可能性大だから、ヒロインに会ったら一瞬で分かる魔法をかけてやった。
ついでに王子に引き寄せられる魔法もね。
これで問題解決、万事OK! と思ってたんだけど……甘かった……。
「なぁ、魔女……本当に間違いないんだよな?」
ある昼下がり、私のもとに来た男がそう言う。自分で言うのも何だけど、私の魔法は一流と言っても過言じゃない。間違いなんてありえない。
「当たり前でしょ。っていうか自分の運命の相手よ? 分かんないの?」
「いや、俺も間違いないとは思うんだけど……」
「だけど、何よ?」
苦い顔をする彼に嫌な予感がした。
「彼女、記憶無いらしい……」
「はい?」
今、何て言った?
「だから、前世のこと覚えてないんだよ」
「はあああぁ?! なにそれ?! どうすんのよ?!」
「そんなこと言われても」
正直言って前世では王子様でも、現世の彼等はどこにでもいる普通の男だ。
いや、何故か王子の容姿は前世のまんまだから悪くはないか……ってそんなことは今はどうでもいい!
「さすがに、魔法で記憶呼び覚ましたり、心動かすのは……」
「分かってる、出来ないんだろ」
いくら魔法が万能でも、ルールってものはあるし出来ないことも沢山ある。
本当に何でも出来るならわざわざ出会わせて……なんて面倒なことしない。
一瞬でお互いその場に魔法で呼び出して結婚式決行よ。
誓いを見届けるのが神父じゃなく魔女ってのが異質だけど。
「記憶無いからって諦められたら困るんだけど」
「俺も諦める気無いから相談に来た」
そう言われてもこればっかりは私はどうにも出来ない。
「改めて、自分に惚れさせなさい」
「簡単に言うな」
お互いに深くため息。
「分かった、ようやく会えたんだ。絶対好きになってもらう」
そう言って立ち去る男の背を見ながら、
「本当マジで頼むわよ、私の未来もかかってるんだから」
そう一人呟いた。
と、いうわけで私、魔女キサラとヒロインの貴女の運命は彼等に託されたのでした。